誰もが地域コミュニティの「プレイヤー」になれる――「世田谷をみんなでD.I.Y(手づくり) しよう!」イベントレポート

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ご近所SNS「マチマチ」は、これからのよりよい地域社会、コミュニティデザインの在り方を探っていくため、関連する様々なイベントに参加しています。

今回は、世田谷区で開催された「世田谷をみんなでD.I.Y(手づくり) しよう!」というイベントの様子をレポートします!行政と住民が一緒になってまちを盛り上げようとしている世田谷区ならではの、熱気に包まれたイベントとなりました。

観客ではなくプレイヤーとして世田谷を育てよう

世田谷区では、2016年11 月から、現世田谷区長・保坂展人さんが中心となって運営を行う「保坂展人政策フォーラム」を開催しています。

このフォーラムは、いわゆる「政治塾」とは異なり、住民が参加して政策立案のための着想・企画をチームで育てて、制作まで落とし込むことを目標としたもの。これまでに数々のワークショップを重ねてきました。

f:id:MegumiHarada:20170517104949j:plain世田谷区長・保坂展人さん。

今回のイベントでは、このフォーラムの成果発表会と共に、社会学者の宮台真司さんと保坂区長の対談や、参加者同士のワークショップを実施。

これらを通じて、“観客”ではなく“プレイヤー”として、住民が世田谷を育んでいくためのヒントを得て、自ら実践するための第一歩とすることを目指して開催されました。 

まちづくりの先進地・世田谷

イベントは、宮台真司さんと保坂区長の対談からスタート。宮台さんは、世田谷区の基本構想や基本ビジョン策定にも関わってきました。保坂区長が、これまでの活動を基に、宮台さんに世田谷区の住民や、まちづくりに対する印象を尋ねると、現在の社会の動きを踏まえた上で、「世田谷区は恵まれている町」という答えが返ってきました。

宮台さん「以前の日本社会は、僕たちの言葉で置き換えれば『生活世界がシステムに置き換わっていく』状態でした。コンビニエンスストアを例に考えてみるとわかりやすいのですが、コンビニが広がれれば広がるほど、利便性で勝てない地元のお店は衰退していった。つまり、マニュアルに従って役割を演じられれば、何でもいいということです。人々が地元的なものから遠ざかる動きがあったんですね」

21世紀に入って、社会が変化してきた一例として、地域の商店を変えたコンビニが、地域の最後の繋がりのハブになってきている街もあると宮台さんは語ります。

宮台さん「今あるコンビニは、それぞれ酒屋さん、お米屋さんというように、元々別のお店だったパターンも少なくありません。最初は、どのお店もそのルーツを完全に消して、どこも画一的な“コンビニ”として運営しようとしていました。でも、コンビニに来るお客さんは皆、昔からの知り合いです。

近所のこどもが来たら、以前と同じようにしゃべるし、地元の人とも立ち話する。その結果、コンビニが「利便性を追求した場所」というシステムを維持しながら、昔の地元商店のような地域のハブとしての役割も担い始めたんです」

f:id:MegumiHarada:20170517105054j:plain世田谷のまちづくりにも関わる、社会学者・宮台真司さん。

 地元的なものを排除し、システムに頼ろうとする世界から、システムが地元的なものを回復する動きへ。特に東日本大震災を挟んで、社会の流れが変わってきたと宮台さんは話します。そうした動きの中でも、世田谷の存在は特に際立っていると感じられるのだそう。

宮台さん「こうした社会の動きの中でも、世田谷は特に恵まれた町だと感じています。世田谷には、昔ながらの相互扶助的な関係性が残っていたり、住民一人ひとりの自立意識が高いんですよ。

世田谷で以前ワークショップを行った時、参加者を抽選で選びました。これはヨーロッパでは普通のことなんですが、日本では無作為抽出をやらない自治体も少なくありません。ワークショップの参加者を単なる抽選で選ぶと、プロ市民的ではない人たちが選ばれて、議論がうまく進まないからです。

世田谷の場合、抽選によって、普段色々な仕事でがんばっていらっしゃる人たちが集まりました。その力を、自治体、地域の政治に向けて考えてみたら、すごくたくさんアイデアが出たんです。ヨーロッパと同じですね。世田谷が国際標準、先進国標準にキャッチアップしていると思います」

政策をつくるプロセスを住民と共有する

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自立した住民が多い街、世田谷。では、こうした意識・関心の高い住民の声をまちづくりに生かしていくためには、どうすればよいのでしょうか。

そこで行われたのが、自立した住民を巻き込むためのプラットフォーム「政策フォーラム」です。このフォーラムは、保坂区長の「まちを作り替えていくプロセスを共有する仲間が欲しい」という思いから始まりました。

保坂区長「全ての分野において、斬新で、良く考えられた政策を展開したいのはやまやまですが、一人の人間ができることは限られています。なので、政策を作り替えるプロセスを共有する担い手や仲間が欲しいなと思ったんですね。ふとした気づきから具体的な企画になり、法制度や予算とどう絡めて具体化するのか……ということを、3回に分けて皆さんにお話する機会を作りました。

テーマは、具体的なものになるよう心がけました。例えば、世田谷にはいくつかサテライト型ワークステーションがあるのですが、そこに保育機能がつくとどうだろうか、という議題。さらに、児童養護施設を出た18歳以上の若者の支援や、65歳以上の男性たちの孤立解消対策などを、フォーラムの参加者と一緒に考えていきました」

地域コミュニティの“仲間意識”を育む場をつくる

宮台さんは、政策やまちづくりなど、他者と協働して行うプロセスにおいて「“自分たちが仲間だという感覚をもてるかどうか”がカギ」だと話します。

宮台さん「昔は社会に統一した価値観や感覚があったので、全く関係ない人同士でも、物事を前に進めやすかったんです。ただ、今は共通感覚が作りにくい時代。もともと、他人を仲間だと思うのは非常に難しいことです。さらに、仲間意識が崩れると「きっと、誰かがどこかで自分だけが得するようにうまいことやっているに違いない」という疑心暗鬼が生まれるわけですね。

ただ、それをカバーするのも「仲間意識」。住民同士の仲間意識がしっかりと維持されれば、自分たちの力で秩序を守っているという意識も続くんです。そうなってくれば、基本的に「自分たちでできることは自分たちでやろうよ」というムードが醸成されてきます」

自分たちが欲しい街を自分たちで作り上げるために欠かせない「仲間意識」。見ず知らず同士の他人から、世田谷住民としての「仲間意識」を生み出す場をつくるために、保坂区長は今回のイベントのような対話の場や、政策フォーラムのような場を作り続けていきたいと話します。

保坂区長「時代と向き合って、地域に根差しながら一歩ずつ変えていくことが、すごく大事だと思うんですね。特に私は、個人の生き方やライフスタイルも議論の文脈に含めることで、街の在り方を住民同士が自主的に考えていく…という雰囲気が作りたい。

世田谷区の人口は、もうすぐ90万人に達するほどになりました。多くの政令都市より人口が多く、ずいぶん世田谷区民意識を感じられる人が増えてきたのではないかと思います。今回お越しくださっている方にはぜひ次回以降も参加して頂き、新しく街が変わっていくリアリティを感じてもらうことができれば嬉しいですね」

ファシリテーターの存在が、協働の場に楽しさと信頼を与える

それぞれの立場から「今、そしてこれからの世田谷のまちづくり」における重要な視点について語った保坂区長と宮台さん。トーク後、それぞれの立場からより詳しいコメントを頂くことができました。

宮台さんには、「住民が、自ら仲間意識や楽しさを生み出すために必要なものとは?」という点についてお聞きしました。鍵になるのは、“ファシリテーター”の存在なのだそう。

宮台さん「ファシリテーターの大切な役割は「熟議の場を引き回しの場にしないこと」と、『熟議によって分裂が生じないようにすること』だと思います。だからと言って、『ファシリテーターが場を完璧にコントロールしている』という印象を与えてはいけません。

『自分たちの力で場を維持している』と参加者に思わせられるかどうかがポイントです。住民自身がファシリテーターになれればベストだけれど、それはなかなか難しい。なので、最初はプロのファシリテーターをお願いして、議論の場を作るというのも一つの方法です」

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こうしたファシリテーター的な存在の重要性は、リアルな住民同士のコミュニケーションの場に留まりません。宮台さんは、「ネットやデジタルの世界にこそ、ファシリテーター的な存在が重要」と話します。

宮台さん「基本的にSNSを含めたインターネットの特徴は、“不完全性”です。誰が何を言っているのかわからないからこそ、情報を真に受けてしまう。実際に対面すると「この人はちょっと違うかもしれない」というのがわかるのですが。

ネットだけでは調達できないような情報を、どう入れ込むのかということが非常に重要です。例えば、「ほぼ日」の糸井重里さんは、「糸井さんが作った場だから大丈夫」という信頼をうまく作り出していますよね。

基本的には対面のコミュニケーションにおけるファシリテーター役のような存在が必要なのですが、ネットの場合は特に“名前”が大切。お墨付きとか、スーパーバイズしているというメッセージが求められている」

ただ、オンライン・オフライン問わず、こうした協働の場に興味・関心があまり高くない層が存在していることも事実です。そうした層をどうやったらまちづくりに巻き込んでいくことができるのでしょうか。 

宮台さん「重要なのは、『テーマやトピックの設定』です。行政と住民のコラボレーションの場合、なかなか住民がものを言いにくい。でも、例えば『子どもの教育』については、比較的誰でも意見を言いやすいんです。自分に子どもがいたり、自身の経験を参照できたりと、実感が持ちやすいから。中学や小学校の教育、子どもたちの良い成育環境をつくるために話すというような切り口であれば、参加しやすいと思いますね」

オン・オフライン問わない地域コミュニティの対話の場づくり

保坂区長には、進化する世田谷の対話の場づくりについて、今後の方向性を伺いました。 

保坂区長「今日のような対話の場も、元々はスピーカーを呼んで、皆で講演を聞くという形から始めたんです。何年か前から、こうしたワークショップやワールドカフェに切り替えていったんですね。参加者が関われる余地がたくさんある方法を取ると、参加度がまったく異なります。今日の場も一つの貴重な住民とのコラボレーションの機会として、今後の政策フォーラムのプログラムをつくっていきたいと思います」

また、今回のイベントの参加者の多くは、SNSを介して集まったのだそう。保坂区長は、今後も、デジタルやSNSを使った行政のコミュニケーションも積極的に行っていきたいと話します。

保坂区長「過去には、ツイッターフォロワーミーティングというものを過去30回程度開催しています。私のツイッターのフォロワーと直接会って対話しようというイベントです。教育など、様々なテーマで議論を行ってきました。

通常、SNSで集客すると、広く浅いディスカッションになりがちです。このミーティングでは、開催回数を重ねることで、徐々にディープな議論ができるようになってきました。参加者も、世田谷区民が7割くらいを占めるような場に変わってきています。こういう場を生かしながら、エッジの効いた政策もどんどん出していきたいですね」

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地域コミュニティについて、1人の「プレイヤー」として考えよう

保坂区長と宮台さんの対談の後には、「政策フォーラム」の参加者による成果発表会や、イベント参加者全員が参加したワークショップが行われました。

「政策フォーラム」の発表会では、参加チームの中でも特に評価の高かったチームがプレゼンを実施。「グリーンインフラ」や「シビックテック」などのキーワードに対して、各チームのアイデアが披露されました。

その中でも最優秀賞を獲得したチームのテーマは「参加・協働による民主主義のバージョンアップ」。区民活動に関する活動の現状や課題をていねいにリサーチしたうえで、住民同士の垣根を超えて、参加・行動できるエコシステムを作るための場づくりが提案されました。

宮台さんは、「全体の構造がとても分かりやすく、それに対する施策が示されていた。仲間意識を育むためには、何かが決定された後にそれが全員にきちんと伝わる場が必要。そうした場づくりの足掛かりになるのではないか」と評価しました。

f:id:MegumiHarada:20170517105301j:plain「政策フォーラム」にて最優秀賞だったチームのプレゼンテーション。

 続いて行われたワークショップでは、参加者が「グリーンインフラ」や「子育て」、「空き家対策」などのテーマに分かれてディスカッション。開始当初は、初対面ということもあってか皆さん緊張気味でしたが、最終的にはどのテーブルも時間が足りなくなるほど議論が白熱しました。

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どのテーブルも議論が盛り上がっていました。

f:id:MegumiHarada:20170517105413j:plainアイデア発表の様子。どのチームも短時間で自分たちの意見をしっかりとまとめていました。

最後に保坂区長は、「すべての発表にワクワクしましたし、どれもやりたいアイデアばかりでした。色々な人が集まることで多様なアイデアが集まったのだと思います。皆さんには、具体的にどうやっていくのか、ワークショップが終わったあとにも考え続けてほしい。これからの中身を、行政も一緒に考えたいし、作っていきたいと思います」と締めくくりました。 

地域住民ひとり一人がプレイヤーになる社会を目指して

このイベントで掲げられていた、「“観客”ではなく“プレイヤー”」へというスローガン。多くの自治体が目指している姿ではありますが、なかなか実現できている地域は多くないということが事実です。

しかし、今回のイベントを通じて、あらためて世田谷の“市民力”の高さを感じるとともに、こうした場を行政も関わってつくりあげているということに大きな希望を見出すことができました。そして、こうした先駆者の存在は、他の地域にとっても大きな励みとなってゆくはずです。

誰しも皆日頃それぞれの職業や仕事をもっており、なかなかリアルな対話の場を持つことは難しいもの。そのため、オフラインの場だけではなく、オンラインの場も含めて、コミュニケーションを深めていく場が必要になります。

ご近所SNS「マチマチ」は、ご近所さんが使うことができるご近所SNS。対話の場を通じたまちづくり活動に興味がある方は、ぜひ一度使ってみてはいかがでしょうか。

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今後もご近所未来ラボでは、コミュニティデザインやまちづくりに関するイベントのレポートを、積極的に皆さんと共有していきます。ぜひチェックしてみてくださいね!

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